0 はじめに
1 体験談・経験談・エビデンス
2 「1 習ったことは忘れないうちに復習せよ」を検証する
3 「2 教科書を何回も読め」を検証する
4 「3 夏に苦手分野を克服せよ」を検証する
5 「4 同じ問題集を何周もせよ」を検証する
6 「5 過去問をやり込め」を検証する
7 まとめ
はじめに
いきなりですが、問題です。
1 習ったことは忘れないうちに復習せよ。
2 教科書を何回も読め。
3 夏に苦手分野を克服せよ。
4 同じ問題集を何周もせよ。
5 過去問をやり込め。
それぞれ◯でしょうか、✕でしょうか?
以下で、それぞれをエビデンスにもとづいて検証しながら、私どもが実践している学習理論を紹介させていただきます。
私どもの小規模塾では、大学受験で東大・一橋・早慶に8割、中学受験で第一志望校に3人に2人が合格しています。
本当です。
少人数なので、ごまかしようがありません。
1 体験談・経験談・エビデンス
さて、受験情報はエビデンスにもとづかない合格体験談や講師の経験談であふれています。
体験談や経験談も大事なのですが、それらをエビデンスで裏づける必要があります。
たとえば、過去問をやり込んだら、逆転合格できたという合格体験記があったとします。
しかし、過去問をやり込んでいなくても、合格できたかもしれません。
また、他の人が過去問をやり込んでも、合格できないかもしれません。
個人の体験は、1回限りのものなので、普遍的に通用するものなのかどうかを確かめようがありません。
講師の経験談も必ずしもあてになりません。
たとえば、その講師が担当する上位クラスだけの偏ったデータなのかもしれません。
それでは、さきほど挙げた問題の◯✕を検証していきましょう。
2 「1 習ったことは忘れないうちに復習せよ」を検証する
鉄は熱いうちにうて、ということばもあります。
習ったことは忘れないうちに復習せよ、と考えている人は多いでしょう。
しかし、これは、集中学習と専門的には呼ばれていて、効果が疑問視されています。
実験によれば、時間をかけて集中学習をしても、1か月ほどたてば、集中学習をしなかった場合と成績が変わらなくなります。
短期決戦の定期試験ならともかく、長期記憶が必要な受験勉強に集中学習は無駄です。
定期試験前に一夜漬けで覚えたことはすぐに忘れてしまいますよね?
長期記憶のためには、間隔を空けて復習をくり返す分散学習が有効だというのが定説です。
ただし、まずは学習内容を理解することが必要です。
学習内容を理解できたら、分散学習で学習内容を定着させて下さい。
3 「2 教科書を何回も読め」を検証する
◯回読み勉強法といったものをよく耳にしますが、実は効果はありません。
ただ教科書を読むより、テストを行った方が少ない勉強時間で成績を上げることができるという実験結果があります。
専門用語でテスト効果というものです。
覚えたはずのことをテスト中になかなか思い出すことができなかったという経験はありませんか?
脳にとっては覚えることと思い出すことは別です。
テストは覚えたことを思い出す訓練となるのです。
なお、テストは、不正解だったもののみ再学習し、正解だったものも不正解だったものもすべて再度行うのが一番効率的だという実験結果があります。
付け加えておきますと、最近では多くの塾や予備校が授業動画を作成しています。
授業動画は授業で理解できなかった部分だけ視聴するのがよいでしょう。
授業動画を何回も聞き流しても、以上の理由から効果はあまりありません。
4 「3 夏に苦手分野を克服せよ」を検証する
これはたんなる塾や予備校による夏期講習の宣伝です。
苦手分野が夏だけで克服できるわけがありません。
有名な実験を紹介しましょう。
ピアノで新しい曲をマスターするのに2つの練習方法をとりました。
1 1曲ずつ確実にマスターする。
2 バラバラに各曲を練習する。
練習時間はどちらも同じです。
さて、どちらの方法の方が効果があったでしょうか?
直感的には方法1の方が効果的に思えますが、実は方法2の方が効果がありました。
直感的には、課題を1つずつ克服していくのが正しい勉強法のように思えますが、複数の課題をランダムに繰り返した方が効果があるのです。
課題を1つずつ克服するのが集中学習、課題をランダムに繰り返すのが分散学習となっているからです。
短期集中で苦手分野を克服しようとして、時間とお金を無駄にしないようにして下さい。
5 「4 同じ問題集を何周もせよ」を検証する
多くの受験指南書などですすめられている学習法です。
しかし、勉強方法はバラバラにした方が分散学習となって、効果的なのです。
同じ問題集を同じように繰り返しても効果は上がりません。
たとえば、中学受験の算数なら、プラスワン問題集だけでなく、ステップアップ演習も併用した方がよいのです。
大学受験の数学なら、青チャートと1対1対応の演習を併用した方がよいでしょう。
同じ問題集を繰り返してもよいのですが、繰り返す間隔を空けて、問題を解く順番をランダムにするべきでしょう。
同じ問題集に取り組む場合、本を解体して、あるいはコピーして、異なる単元をミックスするようにページをランダムに並べ直すのがおすすめです。
どの解法を使う問題が出るのかがわからない入試に近い形で演習ができるというメリットもあります。
6 「5 過去問をやり込め」を検証する
これも多くの受験指南書などで言われていることです。
しかし、過去問をやり込んだら、合格可能性が上がるというデータは存在しません。
ほとんどの受験生は第一志望校の過去問をやり込んでいますので、過去問を少々やり込んだくらいで合格可能性が上がるとはとても思えません。
さらには、次のような決定的な実験があります。
次の問題のテストを行います。
テスト問題 「ANLER」を並び替えて、意味がある単語をつくりなさい。
正解は「LEARN」(学ぶ)です。
テスト勉強は2つの方法で行います。
方法1では、テスト勉強としてテスト問題と同じ問題に繰り返し取り組みます。
方法2では、テスト勉強として次のような毎回異なる問題に取り組みます。
問題B 「RELAN」を並び替えて、意味がある単語をつくりなさい。
問題C 「NERLA」を並び替えて、意味がある単語をつくりなさい。
問題D 「LAREN」を並び替えて、意味がある単語をつくりなさい。
実験結果は驚くべきものです。
勉強したものとまったく同じ問題が出題された場合よりも、テスト問題とは異なる問題をいろいろ解いた場合の方が成績がよかったのです。
意外かもしれませんが、経験上納得できます。
各塾が入試問題の的中を競っていますが、的中しても、合格実績は大して変わっていません。
私もかつて国語の問題を何度も的中させましたが、それが合格実績を押し上げることはなかったと思います。
定期試験前に、試験問題とそっくりのプリントに取り組むのではないのです。
入試問題では、学習したものと同じ問題が出題されても、できるものはできますし、できないものはできません。
よって、入試直前に予想問題や過去問をやり込むのはあまり意味のないことなのです。
過去問は、模試を補うために使用した方が役立ちます。
7 まとめ
最後にまとめを行いましょう。
受験勉強は復習をテスト形式でランダムに行なえ、というのが鉄則です。
1 学習内容を理解した上で、間隔を空けて復習をくり返して下さい。
2 復習は、テスト形式で行って下さい。
テストは、不正解だったもののみ再学習し、正解だったものも不正解だったものもすべて再度行って下さい。
3 苦手教科を集中学習しないで下さい。
4 問題集は複数のものを併用して下さい。
同じ問題集を繰り返してもかまいませんが、その場合は、繰り返す間隔を空けて、問題を解く順番をランダムにして下さい。
5 過去問は定期的に取り組んで下さい。
参考文献
「進化する勉強法」(竹内龍人/誠文堂新光社)