衝撃の検証結果【中学受験はコスパがいい】


目次

0 はじめに

1 私立中高一貫校に通うことによって偏差値はどれくらい上がるのか

2 中学受験のコスパ

3 私立中高一貫校による教育の効果とは

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はじめに

今回は中学受験はコスパがよいのかどうかを検証してみました。

はじめに強調しておきたいのですが、個人的には中学受験をコスパで考えるのには違和感をおぼえます

もちろん何にでも予算の制約はあります。

しかし、コスパと予算の制約とは異なるものです

たとえば、私は服には興味がないのでコスパのよいものを選ぼうとします。

しかし、必要な書籍の購入の際にコスパは考えません。

その際考えるのは予算の制約だけです。

しかし、塾講師としては一度は中学受験をコスパで考えてみるべきだと思い、検証してみた結果、衝撃の事実がわかりました!

結果は常識には反しますが、データに基づいてしっかり検証していますので、きっと納得していただけると思います。

1 私立中高一貫校に通うことによって偏差値はどれくらい上がるのか

まずは、中学受験を経て私立中高一貫校に通った場合、高校受験の場合と比べて、偏差値がどれくらい上がるのかを調べてみましょう。

私立中高一貫校の大学合格実績が高いのは周知の事実です。

ただ、よく指摘されるように、その原因の大部分は、もともと学力の高い生徒が私立中高一貫校に通っているということにあります

ここで問題にしたいのは、私立中高一貫校の大学合格実績のどこまでが生徒自身のもともとの学力によるものなのか、どこまでが学校による教育の効果によるものなのかということです。

念のためですが、サンデーショックというのは、東京の私立中高一貫校の多くが入試日としている2/1が日曜日であった場合に起きる現象です。

日曜日を休日とするプロテスタント校が入試日を2/2にずらすため、受験できる学校が減る2/1の入試が厳しくなり、受験できる学校が増える2/2の入試が易しくなります。

研究結果によれば、サンデーショックによって偏差値が上がる学校、下がる学校が出てきますが、そのことによって大学合格実績はほとんど影響を受けません。

ということは、大学合格実績には、入学時の生徒の偏差値によらない、入学後の学校による教育の効果が認められるということになります。

国立・私立の中高一貫校と非中高一貫校を比べることによって、中高一貫校に通った場合、公立中学校に通った場合より平均で偏差値が3~4ほど上がることを示した研究があります。

ここまでは通説通りでしょう。

なお、偏差値が3~4上がったところで、同じ大学の下位学部ではなく、上位学部に受かるという程度の効果しかないという意見を見ましたが、これは平均の考え方をまったく理解できていない意見です。

平均で偏差値が3~4上がるというのは全員一律に偏差値が3~4上がるということではありません。

結論から述べますと、偏差値3~4の上昇というのは1浪と同程度の効果です。

なお、1浪は大学のランクを下位から中堅、中堅から難関に上げる可能性をちょうど倍増させる効果があります。

まとめますと、私立中高一貫校に通うと、高校受験をして1浪した場合と同レベルの大学、もしくは高校受験をして浪人しなかった場合より1ランク上の大学に現役で受かる可能性が高いと考えてよいということになります。

2 中学受験のコスパ

経験上、中学受験をしたのだから、大学受験は現役ですませてほしいと考えている保護者が多いですので、以上は保護者の期待通りの結果であるように思えます。

浪人1年分の経済的損失は、私立中高一貫校に通った場合に余分にかかるとされる1,000万円とちょうど同程度なのではないでしょうか

予備校代・受験費用で200万円前後、これに1年分の衣食住の生活費を合わせて300万円ほどでしょう。

さらには、浪人して働く期間が1年減ることによって、数百万円以上の収入が減ると考えられます。

よって、1浪による経済的損失はざっくり1,000万円ほどでしょう。

つまり、中学受験でも高校受験でもコスパは変わらないということになります

あるいは、高校無償化により中学受験の方がコスパがよくなるかもしれません

また、中学受験をした方が、浪人をしなくてすむ分、タイパはよいということになります。

3 私立中高一貫校による教育の効果とは

ところで、私立中高一貫校による教育の効果とは具体的には何でしょう?

確認できるのは授業時間が長いということのみです。

浪人効果の主な原因も学習時間が増えたことにあるようです。

ただし、予備校の内部資料によると、浪人効果のほとんどは理科・社会によるものです。

主要教科の英語・数学・国語にはほとんど浪人効果がありません。

つまり、浪人して、現役時代に確保できなかった理科・社会の学習時間を確保することができたことが浪人効果の正体だと思われます。

同様に、私立中高一貫校による教育効果も、たんに授業時間が増えたということではないでしょう。

データによれば、勉強量と成績は必ずしも比例しないからです。

実際、2浪以上に浪人効果は見られません。

浪人効果からの推測になりますが、私立中高一貫校による教育効果のほとんどは、授業時間が長い分、カリキュラムを1年前倒しにでき、最後の1年間を理科・社会を中心とした入試対策にあてることができるということにあるのではないでしょうか。

その他の効果はないのでしょうか?

研究によれば、私立中高一貫校に通うことは進学期待、つまり野心を高める効果がありますが、それは主にいわゆる下剋上受験の場合です

つまり、経済的・社会的に恵まれない家庭の成績優秀な子どもが私立中高一貫校に通った場合です。

また、競争が成績を上げるというのも多くのデータによって否定されています。

競争的環境はむしろ成績を下げるというのがデータが示す事実です。

つまり、できるライバルと切磋琢磨しても、勉強ができるようにはなりません

さらに、どの学校に通ったのかということも、どの大学に合格できるのかということと関係がないということが繰り返し指摘されています。

成績は同じだったが、入試の合否が分かれ、偏差値の異なる学校に通うことになった生徒同士を比べた結果、大学受験の結果が変わらなかったのです。

まとめますと、私立中高一貫校による教育の効果とは高3の1年間を入試対策にあてられるということに尽きます。

私立中高一貫校のどの学校に通うかということは大学受験の結果に影響を与えません。

近年の中学受験では、無謀なチャレンジが減り、安全志向の受験が増えていますが、データを見る限りは、賢明な判断だと思われます。

つまり、リスクのある受験をして、万が一偏差値の高い学校に受かったところで、大学受験の結果は変わらないということです。

【参考文献】

近藤絢子「私立中高一貫校の入学時学力と大学進学実績:サンデーショックを用いた分析」(日本経済研究No70)

森いづみ「国・私立中学への進学が進学期待と自己効力感に及ぼす影響:傾向スコアを用いた分析」(教育社会学研究第101集)

中室牧子『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

中室牧子(共著)『「原因と結果」の経済学』(ダイヤモンド社)

西丸良一「大学受験における浪人の効果:計量分析を用いて」(佛大社会学第31号)

西丸良一「大学進学におよぼす国・ 私立中学校進学の影響」(教育学研究75号)


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